退職する際にもらう退職一時金。
退職金は、税法上「退職所得」としてみなされ、所得税が課せられます。
退職金には、退職後の生活の保障や、長年の勤労を労う意味もあるため、退職所得控除額が設けられたり、他の所得とは分けて課税されるなど、税負担が軽くなるように配慮されています。
(これを分離課税といいます)
この記事では、退職金の所得税の計算方法や確定申告についてご紹介します。
そもそも、どういったものが退職所得にあたるのでしょうか。
退職所得とは?
退職所得とは、退職する際に会社から支払われる退職手当等の一時的な給与のことです。
社会保険制度に基づいて退職時に支給される一時金や、適格退職年金契約に基づいて生命保険会社や信託会社から受けとる退職一時金なども退職所得になります。
勤めていた会社が倒産して賃金が未払いのまま退職した場合に、国から弁済された未払い賃金も退職所得に含まれます。
退職金の所得税額の計算方法
退職金の所得税額は、次の手順で計算します。
① 退職所得控除額を算出
② 課税退職所得金額を算出
③ ②×所得税の税率-控除額=所得税額
ここに復興特別所得税(すべての所得に対する所得税額×2.1%)がかかります。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
①退職所得控除額の計算方法
退職所得控除額は、次のように計算します。
勤続年数によって計算式が異なります。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円未満の場合は80万円) |
20年超え | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
※勤続年数で1年未満の端数が生じる場合は、1年に切り上げます。
<退職所得控除額の計算例①>
例えば、10年3ヶ月勤めた人の退職所得控除額を計算する場合は、勤続年数の端数を切り上げて11年で計算します。
勤続年数が20年未満なので、表の上の段の計算式で計算します。
40万円×勤続年数11年=440万円
10年3ケ月勤めた人の退職所得控除額は、440万円です。
<退職所得控除額の計算②>
勤続年数が36年の人の場合は、表の下の段の計算式を使います。
800万円+70万円×(勤続年数36年-20年)=1,920万円
36年勤めた人の退職所得控除額は、1,920万円となります。
なお、障害者になったことが直接の原因で退職した場合、退職所得控除額は、上記の計算式で計算した額に100万円を加えた金額になります。
さらに、前年よりも以前に退職金を受け取ったことがある場合、または同一年中に2か所以上から退職金を受け取る場合については、退職所得控除額の計算方法が上記と異なることがあるためご注意ください。
②退職所得の計算方法
課税対象となる退職所得の金額は、次の計算式で求めます。
退職所得=(収入金額(源泉徴収前の金額)-退職所得控除額)×1/2
確定給付企業年金規約に基づいて支給される退職一時金などで、従業員自身が負担した保険料又は掛金がある場合には、その支給額から従業員が負担した保険料又は掛金の金額を差し引いた残額が退職所得の収入金額となります。
<(課税)退職所得金額の計算例①>
勤続年数36年で、退職金の源泉徴収前の金額が2,000万円の場合は、
(2,000万円-1,920万円)×1/2=40万円
となり、課税退職所得金額は40万円です。
③退職金の所得税の計算方法
退職所得の課税方法は、分離課税といい、
他の所得と合算せずに税額を計算します。
課税される所得額と税率、控除金額は以下の図の通りです。
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 |
5% |
0円 |
195万円超 330万円以下 |
15% | 97,500円 |
330万円超 695万円以下 |
20% | 427,500円 |
695万円超 900万円以下 |
23% | 636,000円 |
900万円超 1,800円以下 |
30% | 1,536,000円 |
1,800万円超 4,000万円以下 |
40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
<退職金の所得税の計算例①>
先ほども例に挙げた、勤続年数36年、退職金2,000万円の場合で計算してみましょう。
課税所得金額は40万円ですので、上の表で当てはまる税率は5%、控除額は0円です。
この場合、
40万円×5%=2万円
となり、所得税額(復興特別所得税除く)は、2万円となります。
退職金は確定申告が必要?
退職金の支払いを受けるときまでに、「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合は、退職金等の支払いが行われるときに適正な税額が源泉徴収されるため、確定申告の必要はありません。
「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合は、退職金の収入金額から一律20.42%の所得税及び復興特別所得税が源泉徴収されるため、確定申告を行い、適正な税額との差額を清算することになります。
「退職所得の受給に関する申告書」を提出していても、年の途中で退職し、その後再就職しなかった場合には所得が少なく、源泉徴収された税額が多い場合があります。
この場合は、払いすぎた税金を取り戻すためにも確定申告をした方が良いでしょう。
まとめ
今回は、退職金の所得税額の計算方法についてご紹介しました。
どういったものが退職所得にあたるのかを確認したり、退職までに退職所得の受給に関する申告書を提出するなどして退職金の受け取りに備えてくださいね。
この記事が退職金の所得税額の試算に役立てば幸いです。